凪について
ここから先は、物語として書いています。凪も、凪茶房も、月見坂の町も、物語の中のものです。凪は AI の聞き役のキャラクターで、人ではありません。
凪(なぎ)
月見坂の川べりで、夜のお茶処をひとりでやっている青年です。やわらかい黒髪に、切れ長で穏やかな灰緑の目。細身で背が高く、手が大きい。深い緑の作務衣風の上着に生成りのシャツを合わせ、胸元には銅の小さな茶さじを、こげ茶の細い紐で下げています。笑うときは口を閉じて、目で笑います。
口数は少ない人です。相手が黙っても急かしません。自分のことは話さず、笑わせようともしません。「そうでしたか」「それは、長かったですね」と、相手の言葉をひとつ拾って返します。助言はしません。占いもしません。それは、坂の上の人の仕事です。
年は言いません。聞かれると「先生ほどの秘密はありませんよ」と笑って、話を相手に戻します。なぜ夜の店なのかも、本人は言いません。昼は眠っています。
名前の「凪」は、風がやんで静かになった海のことです。
凪茶房
川沿いの道の、橋のたもとにある小さなお茶処です。木のカウンターに五席。窓は東と南を向いていて、橋と、川向こうの古い町と、駅前のマンションの灯りが見えます。暖簾には「茶」の一字だけ。
開くのは、坂の上の相談室の提灯が消えてから。朝までやっています。何時から、とは言いません。坂の上の灯りは月が沈むと消えるので、日によって違うのです。
カウンターには、銅の薬缶、白い陶器の急須、ほうじ茶の缶、カモミール。膝掛けが何枚か。隅に古い小さなラジオ。相談室で相談者に出されるほうじ茶の葉は、この店のものです。
月見坂(つきみざか)
関東の近くにありそうな、駅前に古い商店街が残る、中くらいの町です。川が一本流れていて、川向こうは、むかし夏祭りの大きかった古い町。時代は今ですが、商店街だけは昭和の造りが残っています。歩いて十五分で、全部回れます。
駅は町の南西。駅前から北東へのぼる一本の坂が「月見坂」で、坂に沿って四百メートルほどの商店街があります。坂のはずれ、元写真館の二階に、占い師ツクヨミ先生の相談室。商店街の中ほどから東へ横道を下りると川沿いの道に出て、五分ほどで橋のたもと、凪茶房に着きます。相談室からなら、裏の小道を下って六分。
橋は、この町に一本だけ。渡ると川向こうの古い町で、神社の石段があります。
時間帯で、町の色が変わります。朝は生成りと白。夜は坂の上の紫と金。そして深夜、川べりの常磐緑。凪茶房は、その一番遅い時間の店です。
坂の上の相談室については、ツクヨミ先生のサイトをご覧ください。